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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)722号 判決 1963年1月28日

原告 渡辺健一郎

右訴訟代理人弁護士 清水繁一

同 小宮正己

被告 浅川晃

右訴訟代理人弁護士 竹内竹久

主文

被告は原告に対し昭和三五年一〇月一日から昭和三七年一〇月一三日に至るまで一ヶ月金三、五〇〇円の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、原告がその所有にかかる原告主張の家屋の内、原告主張の部分を昭和三〇年七月中被告に対し賃料一ヶ月金三、五〇〇円で賃貸したことは当事者間に争いがない。

二、検証の結果と原告本人尋問の結果(第一回)によれば、被告が昭和三三年三月頃原告の異議を無視し、二階四畳半一室に隣接して約二坪の台所を兼ねる一室(別紙二階平面略図黒斜線部分)を設け、これに、右四畳半より通行し得る如く右四畳半の壁を一部とりこわしたこと、その後昭和三五年一〇月二〇日頃被告が、店舗内の便所を扱取用から水洗用に変更する工事をなしたこと、その頃、被告が原告に水を浴びせかけるというようなことをしたこと、右工事についての水道増設工事申込書その他(甲第九、第一〇号証)において渡辺貞行(原告の弟)名義が原告の承諾なく使用されたことが認められる。

しかしながら、検証の結果と証人佐竹信一≪中略≫を綜合すれば、原告が被告に賃貸した右部分は、八百屋某が原告から賃借して階下の土間部分に野菜等を置き、同所でその販売等をもしていたものであつたが、同人の退去後不動産仲介業者菊池栄一の仲介で塗装業を営む被告が、その店舗並に住居として使用するためこれを原告より借受けるにいたつたものであり、当時階下三坪の部分の構造は概ね土間、表側に出入口があり、周囲は板を打ちつけて囲つた程度、その内表側の約二坪の部分は階段のある個所を除き平屋で、その上に板を用いた屋根が庇状に存していたもので、全体として極めて粗末な作りであつたこと、賃貸に当り、原告においても、被告が右階下三坪の部分に対しこれを塗装の営業店舗として使用するために、手を加えることは当然容認するところであつたこと、被告は入居後右階下三坪の部分の内外にトタンその他を張つたり建具等に手を加える等してこれを営業店舗として使用してきたが、昭和三三年一月、区劃整理の結果、家屋が約一間余り後退して現在地に移動したところ、被告は、従前店舗部分の一部を炊事場とし、また便所も被告の賃借部分にはなく、(原告使用部分内に存するのを共用)生活上、甚だ不便であり、営業上も好ましくなかつたので、右の家屋の移動に伴う損傷の修復とともに、同年三月頃、階下三坪の一隅に便所を設け、また右三坪の内表側の約二坪の前記庇状の屋根を取り除き、板をならべて、これを天井と床に兼用し同所に二階四畳半一室に隣接して約二坪の台所を兼ねる一室(別紙二階平面略図黒斜線部分)を設けたものであつて、右一室の部分は高さ五尺ないし七尺位外側はトタン張り、内部はベニヤ板、屋根はルーフイング葺にして既存建物に附加された全くの仮設的なもので、その撤去でも、極めて簡単容易になし得る程度のものにすぎなかつたこと、しかし右の工事が主因となつて、その後原、被告間がとかく円満を欠き原告の申立にかかる家屋明渡の調停においても話が纒らず、明渡問題をめぐつて両者が掴みあいのけんかをするようなことにもなつたが、前記被告が原告に水を浴びせかけたというのは、右のような紛争の一こまにすぎないことが認められ、原、被告各本人尋問の結果(いずれも第一回)中、右認定に反する部分は信用せず、他に右認定を左右する証拠はなく、従つて以上から考えると、これ等の工事は賃貸借後二年半余を経過した後以降において被告が自己の便益からなしたものではあるけれども、その経緯、規模、態様等に徴し未だもつて賃貸人たる原告に対する背信行為として、原告において賃貸借契約を解除し得べき事由には該当しないと解するのを相当とし、また水道増設工事申込書その他の冒用についても、そのために特に原告が特段の迷惑、不利益を蒙つたことは認められないから、冒用自体の責任はともかくとして、これらの事実から、原告において被告に対して賃貸借解約の申入をなすにつき正当の事由があるものともなし難い。

三、次に原告主張の如き写真であることに争いのない、甲第六、第七号証の各一ないし三≪中略≫によれば、被告が本訴係属中の昭和三七年四月九日及び同月一一日の両日にわたつて原告の承諾なくして工事をし階下三坪の表側の中間支柱一本を取り除き、従前の出入り口の敷居より約一尺拡げた個所に鉄レールを敷いたコンクリートの敷居を設けここにガラス戸四枚をいれて出入口としその両端に柱をたてこれらを従前からの柱と鉄製の金具等で結び間口一二尺奥行約一尺(別紙一階平面略図黒斜線部分)を増築しかつ、下見板も数枚はがしてガラスにかえ右三坪の採光量を多くしたけれども、当時右階下三坪の表側の柱や土台や敷居には相当腐蝕をきたしており、また被告が営業のため新たに買入れた小型トラツクを右三坪の所に入れようとしたため、トラツクの重量により敷居が低下し中間の支柱が稍浮いてしまつたような状況も生じたので、補強をも兼ねて、右トラツクを右階下部分内に納めることもできるようにすすために、右の如き工事をしたものであり、該工事は右トラツクを右階下部分内にいれることが、その主要目的であつたことは疑を容れないが、店舗としての利用であり、家屋の補強にもなるものであつて、この工事の結果中間の支柱一本が取り去られ表側の外形も大分変化はしたが店舗としての体裁を増し、しかも本来の家屋構造に対して著しい変更が加えられたというようなものではないことが認められるから、被告において賃貸借の当初、階下三坪の部分につき如何様にも全く自由に増改築できる旨の特約を原告との間にしたいという事実はこれを認めるに足る証拠はないけれども、この工事をしたことをもつてしても、なお被告の賃貸人たる原告に対する背信行為として、原告において賃貸借契約を解除し得べき事由に該当するとは未だいい難く、またこの工事をしたことを加えて考えてみても、未だ原告において被告に対して賃貸借解約の申入をなすにつき正当の事由を具備するにいたつたものというに足らない。

四、しからば原、被告間の賃貸借契約が原告主張の事由により、原告主張のように終了したということはできないから、従つて被告は原告に対し昭和三五年一〇月一日から昭和三七年一〇月一三日に至るまで一ヶ月金三、五〇〇円也の割合による賃料を支払うべき義務があり、その支払を求める限度において被告の本訴請求はこれを正当とし認容すべきであるが、その余は失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 園田治)

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